脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

オンラインサロンはすべて悪なのか?

社畜サロン騒動に巻き込まれた(脱社畜サロンと脱社畜ブログは無関係です参照)ことをきっかけに、オンラインサロンというサービスそのものについて考えてみることにした。

 

ネット上には、オンラインサロンについて批判的な意見が少なくない。たしかに、オンラインサロンは胡散臭いものも多い。「ネットで稼ぐ方法を教える」といった触れ込みのサロンは情報商材サブスクリプション化したものにしか見えないし、これからはオンラインサロンの時代で大学進学は不要だなんて意見は、さすがにポジショントークが過ぎるように思う。

 

 

こんな言説を真に受けて大学進学を辞めるような人はさすがにいないと思うが、こういった誰が聞いても「いい加減なこと言ってるなぁ」と感じられるサービスにたとえば月額3000円というそれなりの金を払う人たちがいるという事実はたしかに驚きであり、その驚きがある種の嘲笑になってネット上のオンラインサロンに対する冷たい空気が形成されているのだと思う。

 

しかし一方で、オンラインサロンはすべて悪なのかと言われると、必ずしもそういうことはないように思える。月額3000円(この価格はあくまでモデルケースで実際にはサロンによって違うのだろうけど、たぶんこのぐらいの価格帯が標準だと思うので、とりあえず3000円ということにして話を進める)を「ボッタクリ」と見るかどうかは、結局のところそのサービスが提供するものを受け手がどう捉えるかどうかだ。そもそも、月額3000円以上するサブスクリプション系のサービスは世の中に溢れており、スポーツジムの利用料や新聞の購読料を漫然と払っている人も少なくない以上、オンラインサロンだけが月額3000円という価格だけを取り上げて「ボッタクリ」だと言うのも不公平な気はする。

 

思うに、オンラインサロンの提供する価値は以下の3つに集約される。

  1. サロン主催者と直接(といってもオンラインだが)交流ができる
  2. 同じ嗜好を持ったサロンの他のメンバーと交流ができる
  3. サロン内でしか得られない情報を得ることができる

1はオンラインサロンが普及する前からあった話で、要はファンクラブだと思えばいい。サロン主催者の熱烈なファンなら、主催者と直接やり取りをすることに月額3000円以上の価値を見出すことはそれほど不思議なことではない。この点について、外野がアレコレ言うのはナンセンスである。本人が納得しており、そのことで誰かに迷惑をかけていないのであれば(ハマり過ぎて家庭崩壊を招いているなどのことがなければ)周囲は生暖かい目で見守っていればよいだろう。

 

2の提供する価値は、案外、バカにできないように思う。大学生ならともかく、社会人の場合、普通に生活しているとなかなか会社以外のコミュニティを持つことは難しい。しかし、会社の人間関係だけに交際範囲が限定されてしまうのは視野を狭めることになる。そういう人にとって、オンラインサロンの提供するコミュニティ機能が月額3000円以上の価値を生むことは十分考えられる。

 

3の価値について、オンラインサロンはよくこういった「秘密のノウハウを伝授する」という看板を掲げて集客を行う。そういう意味では、3こそがオンラインサロンの中心的価値のように感じられるが、僕の考えでは、実はこれが一番提供されているかあやしいものに思える。

 

これは単発の情報商材にも通じる話だが、仮に自分が「簡単にネットで毎月100万円稼げる秘密のノウハウ」のようなものを知っていたとして、それを他人に伝えたいと思うだろうか? そのノウハウが本当に再現性があって誰でも簡単に真似できるものだとしたら、それは確実に自分の商売敵を生み出すことになる。それならそういう危険を犯すよりも、自分でそのノウハウを使って月額100万円稼いだほうがよいだろう。結局のところ、ノウハウを有料で伝授するというのは、それを実際に使うよりもそうやって情報だけ売ったほうがお金になると思われているからに過ぎない。

 

以上、オンラインサロンについて3つの価値を挙げたが、個人的にアドバイスをするなら、「サロン内でしか得られない情報がある」「XXのノウハウを教える」といったような3の価値を前面に押し出しているサロンは、あやしい可能性が高いと思ったほうがよいだろう。逆に、たとえば主催者のファンで主催者と濃い交流がしたいとか、サロンの形成しているコミュニティ自体に興味があるというのであれば、サロンに入ることを強く否定する理由はない。そこで何が得られるのかは、あとはその人次第である。

 

このように、オンラインサロン自体は必ずしも悪とは言い切れないのだが、ただ一方で、オンラインサロンが安易なマネタイズ手法として選択されやすくなっているというのも事実である。一時期、コミットメントの高いファンを囲い込んで有料メルマガを発行するというマネタイズ手法が流行ったが(そして結果は死屍累々だったが)、サロンは確実にその系譜に連なっており、「メルマガより楽して儲かりそう」という理由だけで開設されているサロンもかなりあると思われる。

 

メルマガは毎週一定の分量を書かなければならないから大変だが、サロンならユーザーが勝手に盛り上がってくれるからメルマガより楽だ、という発想で開設されているオンラインサロンはたぶん多い。そして、残念ながらその認識は間違っている。参加者の大半が「お金を継続的に払い続ける価値がある」と感じられるコミュニティを運営・維持するにはメルマガを継続的に発行し続ける以上の労力が必要で、たぶんそれができる人はほんの一握りだ。最近になって、実際にオンラインサロンに所属している人のサロンに対する不満や愚痴をよく見かけるようになったのは、そういった「安易なマネタイズ手段」として開設されたサロンの実態が明らかになってきているからに違いない。

 

だから、オンラインサロンに入るなら、主催者がどのぐらいの覚悟でそのコミュニティを盛り上げようとしているのかを、よく見極めてから入ったほうがよい。中には、作ったはいいけどほとんど放置状態というサロンも多いと聞く。オンラインサロンの提供価値の1つはファンクラブのようなものだと書いたが、作っておいて適当に放置するというのは、要はファンを舐めてるということである。

 

ちなみに、個人的に、僕が現状で入ってもいいなと思えるサロンは特にない。同じ月額3000円なら、月に数冊本を買うほうを選びますね。

 

完全教祖マニュアル (ちくま新書)

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晩婚化・非婚化と少子化について:『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』

こちらのニュースを見て、そういえば少し前に、少子化について下記の本を読んだことを思い出した。 

少子化について書かれた本は少なくないが、その中でも本書はファクトベース、統計に基づいた議論をすることに終始しており、そういう点で少子化について考える上で基本書にしてよい本である。

 

少子化の原因について、よく言われるのが「女性の社会進出とそれに伴う仕事と子育ての両立困難」というもので、これはたしかにひとつのファクターとして考えられるのだが、もちろん考えられる原因はそれだけではない。本書では、ざっと10個ほど考えられる原因を上げた後に、では実際にどのファクターがどれだけ影響を与えている可能性がるのかを統計情報などに基づいて考察し、その上で我が国の取っている少子化対策についてそれが適切であるかの考察を加える。

 

「保育園落ちた日本死ね」の記事に象徴されるように、ネット上には「子育てと仕事の両立困難」に対する意見や情報が多い。これは別に悪いことではないし、実際に困難なのは事実であって改善の取り組みは続けていかなければならないが、本書が少子化の大きなファクターとして指摘するのはその前の段階、すなわち非婚化・晩婚化である。この話は人口学の世界では常識らしいのだが、不勉強な僕は恥ずかしながらあまりそういう認識をしたことはなかった。

 

いい加減な要約をすると本書の価値を減じてしまうのでぜひ本自体を呼んでほしいと思うのだが、本書の指摘はある意味ではシンプルであり、要は非正規雇用などの低収入で働く若年層が増加することで、若者が結婚願望自体を抱かなくなっているということである。怒られるのを承知で単純化してしまえば

 

正社員になれない→金がない/将来不安→結婚は無理(したいとも思わない)→子供が減る

 

という話である。つまり、(やはりこれも単純化しすぎているが)若者に将来の不安がない程度に金がまわるようになれば少子化問題はある程度、好転するということが言える。行き過ぎた近代化であるとか、価値観の変遷であるとか(価値観で言えば、本書ではトラディッショナルな結婚感が未だに人工構成の多数を占めていることが示される)、よくネット上でされる論考は間違っているとは言わないまでも、量的には実はそんなに影響が大きいものではない。

 

一点、注意が必要なことがあるとすれば、本書が書かれたのは2013年でありちょっとだけ古いという話である。ゆえに、本書に載っている統計は最新データではないのだが、本書で使用されている統計の多くはネットで探せば最新のデータが入手できる。僕も本書を読みながらいくつか見てみたが、著者の主張を大きく覆すような劇的なデータの改善が行われた例は特にないように見られたので、著者の主張は今でも妥当であると考えてよいだろう。

 

本書刊行時点(2013年)と現時点での大きな違いを挙げるなら、本書刊行時点ではまだアベノミクスが本格化していなかったという点が挙げられる。少なくとも株価はだいぶ持ち直したし、「人手不足」が叫ばれるようになり、有効求人倍率も大きく回復した。では、これで少子化問題は好転していくのかというと、基本的にそういうわけではないように僕には思える。

 

数字上は一見、回復したかに見える若者の就業率の実態は非正規雇用が未だ中心であり、彼らの将来不安は未だ払拭されない。大規模な金融緩和をしてみたものの、未だに目標としていた物価上昇率は達成できず、取りうる選択肢は確実になくなりつつある。米中の貿易戦争の火種も消えず、世界経済の先行きは不透明だ。アベノミクスが頓挫すれば、少子化はいよいよ取り返しがつかない段階まで進むだろう(取り返しがつかない段階はとっくに過ぎているという指摘もあるが)。

 

この記事では主に非婚化・晩婚化を中心に内容を紹介したが、本書のカバーする範囲はそれにとどまらず、いわゆる従来的な子育てと仕事の両立支援などについても扱っている。少子化問題について考えるなら、ぜひ最初の一冊として手にとってみることをおすすめしたい。