脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

ほとんどの会社員には、業務を効率化するインセンティブがない

こちらを読んで。

 

 

上のリンクはどうも話ができすぎているような気がするが、会社員の業務効率化については、課題が多い。

 

働き方改革」の文脈で、残業削減のために業務を効率化して早く帰ろうという主張を耳にすることがある。仕事が早く終わればそれだけ早く帰れるようになるのは自明に思えるので、一見、この主張はまっとうに思える。ところが、実際に社員として仕事をしている側の立場で考えてみると、必ずしもそういう単純な話にはならない。

 

まず「仕事が早く終わればそれだけ早く帰れるようになる」という前提が実際にはかなり疑わしい。たとえば、ある人が毎日残業しながら10時間かかってこなしていた仕事を、システムで自動化するなどの手段によって1時間で終わらせられるような業務効率化に成功したとする。それを成し遂げた人はきっと褒められることになるだろうが、ではそれによって以後は仕事を毎日1時間だけこなせば退社していい、とは絶対にならない。業務効率化によって生まれた空き時間で、また別の仕事を課されることになるだろう。むしろ「ちょっとできるやつ」だと思われて、大量に仕事が積まれて逆にもっと早く帰れなくなる可能性するある。仕事を早く終わらせられるようになったからといって、早く帰れるようになるという保証はどこにもないのだ。

 

では、せめて給料の額ぐらいは増えるのかというと、これも結構疑わしい。業務効率化を推し進めればさすがに査定はよくなるだろうから多少は増えるかもしれないが、貢献度に応じた額の給料が増えるというのは日本の職場ではまず考えられないだろう。単位時間あたりのアウトプットを10倍にする業務効率化を成し遂げても、給料が10倍になるわけではない。実際には2倍にもならない。ひどい場合は、査定があるころにはもうその貢献は忘れられており(いわゆる「期末効果」)ほとんど評価されなかったということだってよく起こる。業務改善を納得の行く形で評価に接続できている職場はほとんどない。

 

思うに、業務改善がそのまま自身の利益に直結するのは、会社員ではなくフリーランスだったりする。たとえば、請求書の発行業務であるとか確定申告であるとか、そういう作業を効率化したいと思っていないフリーランスはほとんどいないだろう。こういう本業に付帯する事務作業に限らず、本業自体も短い時間で同じ効果が上げられるようになるのなら、残った時間は遊びに回してもいいし、さらなる仕事に回してもいい。このように、自分のこなす仕事量自体に対する決定権を持っていれば、業務効率化はそのままその人の利益に直結する。

 

ところが、会社員の場合はこの「自分のこなす仕事量自体に対する決定権」を持っていない。それゆえ、仕事を「早く終わらせる」ことに対するインセンティブがない。だから実際によくあるのは、怒られない程度の速度で適度にダラダラと仕事をやって業務時間を使い尽くし、空気を読んで角が立たない時間に退社する、という行動になる。これでは生産性なんて絶対に上がるわけがない。これは会社員という雇用形態に内在する欠陥のようにも思える。

 

ではどうすればいいのか。ひとつは、会社員も本当に「自分の仕事が早く終わったら早く帰っていい」ようにするという道が考えられる。本来、裁量労働制などはこういう方向の改革と親和性が高いはずだった(実際には、残業代カットの良い理由づけに使われているだけだが)。これを実現するには、従来の時間による労働管理から結果による労働管理に移行する必要があるが、課題は多い。

 

もうひとつの方法は、業務効率化をある程度納得感のある形で評価できるフェアな評価制度を整備することだ。10倍の業務効率化を実現したら給料10倍とまではいかなくても、業務改善をした人がやる意味があると思える程度には報いてあげられる仕組みがほしい。これも、言うのは簡単だが実際にやるとなると相当難しい。

 

結局のところ、現時点で最強なのは「業務は効率化するが、それは隠しておく」ことになってしまっている。実際、僕の知人には毎日の仕事を1時間で終わらせてあとは仕事をするふりをしながら遊んでいるという人もいる。効率化のインセンティブがない以上、僕はそういう手段に走る人を非難する気持ちにはなれない。ただ、会社全体や社会全体で見た場合に、その損失の大きさには残念な気持ちになる。

 

すごい効率化

すごい効率化

 

 

70歳以上まで「働きたい」のか「働くしかない」のか

今日の日経新聞朝刊の一面に、こんな記事が載っていた。

 


この調査の詳細については、以下のページで見ることができる。

 

 

調査対象は全国の18歳以上の男女で、働き方から政治への意見、夫婦の役割分担に対する考え方まで幅広く質問しており、結果はなかなか興味深い。たとえば、「1年前と比べて働く時間は?」という質問に対する回答は「変わらない」が56%、「長くなった」が23%、「短くなった」が19%となっており、世間で言うほど「働き方改革」による長時間労働抑制は進んでいない様子が伺える。

 

長時間労働の話についてはまた別の機会にふれるとして話を「70歳以上まで働く」ことに戻すと、「何歳まで働きますか?」という質問に対する回答は「70〜74歳」は14%、「75歳以上」は12%となっており、たしかに70歳以上まで働くと答えている人は全体の3割を占める。記事によると、回答を現在働いている人に限定した場合は37%、60歳代に限ると45%まで「70歳以上まで働く」と回答する人の割合は増えるという。企業の定年を65歳まで引き上げるという話が出て久しいが(現状では、実際に65歳定年制を制度として取っている企業は少なく、何らかの継続雇用制度によって65歳までの雇用を保証しているい状態)実際にはそれをさらに超えて働くことを想定している人が少なくないのがわかる。そう遠くない未来に、さらなる定年延長の制度が導入される可能性は高そうだ。

 

ところで、気になるのはこの調査の質問文言である。この調査では、「何歳まで働きますか?」という質問をしており、これは単に予定を問う問い方だ。別の問い方として、「何歳まで働きたいですか?」という希望を問う問い方も考えられる。この違いは小さくないように思う。70歳以上まで働くと答えた人のなかには、本当は70歳になったらもう働きたくないけど、老後の不安など諸々の理由によって働くしかない、だから自分は70歳以上まで働く、と回答した人がおそらく相当数含まれている。もしかしたら、ほとんどがそうかもしれない。記事には現在の年収額が少ない人ほど70歳以上まで働くと答えている人の割合が増えるとも書いてある。このことからも、「70歳以上まで働く」の実態は、70歳以上まで「働きたい」のではなく「働くしかない」というものである可能性が強い。

 

人生100年時代」という言葉をよく聞くようになった。長生きできること自体は悪いことではない。だが、長く生きるためには当然、それだけの長い生活を支えるためのお金が必要だ。もはや公的年金だけでは不十分なことが予想されるため、お金を得るためには働かなければならない。そんな年齢まで本当は働きたくなくても、働くしかない。『「70歳以上まで働く」3割に』という見出しの裏には、どことなくそういう悲壮感が漂っているように感じてしまう。

 

「生涯現役」という言葉は、普通は良い意味で使われる。たしかに、歳をとってもずっと元気で、自分のやりたいことをアクティブにこなしているシニアは幸せだと思う。できれば自分もそういうふうに歳を取りたい。しかし、それは単に「働き続ける」だけで実現できるようには思えない。「自分の働きたいように」働き続けることができなければ、幸せに生涯現役でいることはおそらくできない。仕事ならなんでもよいわけではないのだ。

 

老後の仕事をどうするか、それはキャリアの出口戦略と言ってもよいだろう。これについては、会社には頼れないと思ったほうがよい。どう老いるかはあくまで個人の問題であり、昔のように退職金で老後を後押ししてくれる会社はどんどん減っている。収入なども含めてどういう老い方をしたいかは、自分で追求するしかない。そういう意味で、「人生100年時代」は非常に難しい時代だと思う。

 

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

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