日本には、「カネ」の話ばかりする人は卑しい、という考え方があるようだ。社会貢献や自分の成長のために仕事をしているというと立派な人だと思われて、「カネのために」仕事をしているというとなんか残念な人のように思われてしまう。ビジネスはそもそも「カネ」を稼ぐ行為なのにもかかわらず、なんだこういう捻れが生じているんだろう、と僕はよく思う。
先日、そんなことをぼんやり考えながら、前々から読みたかった『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(西原理恵子)を読んだ。読み終わったら、不覚にも涙ぐんでいた。これはものすごくいい本である。読んだことの無い人はぜひ読んでほしいと思い、このエントリを書いている。
- 作者: 西原 理恵子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/06/23
- メディア: 文庫
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本書は、基本的にはサイバラさんの自伝である。サイバラさんの今までの壮絶な人生(父の死、母の再婚、高校中退、義父の死、上京して漫画家になる、離婚、旦那の死……)を通して見た、カネについての話が書かれている。本書がカネについてカバーしている範囲は非常に広く、食べるために必要な最低限の生活を維持するためのカネの話から、ギャンブルやFXのようなあっという間に消えてしまうカネの話、グラミン銀行のような途上国におけるマイクロファイナンスの話まで扱われている。素晴らしいのは、これらの話すべてが、サイバラさんの体験を出発点としており、評論家や学者の評論・批評とは一線を画していることである。
本書では「仕事」や「働くこと」についても書かれている。サイバラさんの仕事観と、僕がこのブログで書いている仕事観は結構食い違っている。それでも、僕はこの本をとてもよい本だと思うし、自信をもってオススメできる。なぜなら、サイバラさんは仕事を単なる自己実現の場といったような綺麗事として捉えてはおらず、「仕事でカネを稼ぐ」ということと正面から向き合っているからだ。これは、巷の薄っぺらい自己啓発書と違って、地に足がついている考え方であり、ここから学べることはとても多いと思う。
この本は、「カネ」の問題と正面から向きあうには最適な本だ。カネのことで苦労している人、あるいはカネなんか別にいらないと思っている人にも、ぜひ読んでもらいたいと思う。