「ニート」が社会問題と捉えられるようになってだいぶ経つ。ニートと称される若者は急増中であり、最近の若者は、「働くこと」に意欲を感じていないと、メディアは報道し続けている。
こう言った「ニート」論をそのまま信じきっている人は、ぜひこの『「ニート」って言うな!』(本田由紀・内藤朝雄・後藤和智)を読んでほしいと思う。
- 作者: 本田由紀,内藤朝雄,後藤和智
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/01/17
- メディア: 新書
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恥ずかしながら告白すると、この本を読むまでは僕自身も「ニート」問題を正しく捉えていたとは言い難い。ニートと聞けば、ネットでよく出てくる「働いたら負けかなと思ってる」と言っていた例の人を想像し、「そういう若者が増えてるんだなぁ。気持ちはよくわかるよ」と思っていた。しかし、この本を読むと、「ニート」言説がそんなに単純なものではないことがわかる。
本書は、3部構成となっている。第1部は、本田由紀氏が統計を駆使して「ニート」言説と「ニート」と定義される若者像の乖離について論じている。衝撃的なのは、いわゆる「働いたら負けかなと思っている」タイプのニートは、別に急増中でもなんでもないということである。現在日本の労働において解決すべき問題はニート問題などではなく、もっと他に大切な問題があることに気がつく。
第2部では内藤朝雄氏が、ニート問題も含めた「青少年ネガティブキャンペーン」について論じている。いわゆる「若者バッシング」のような言説が生み出される社会構造の背景について分析し、「自由な社会」の構想について話が進む。
最後の第3部は、後藤和智氏が、新聞、雑誌などから個別な「ニート」言説を取り上げ、それに対して問題点の分析を行なっている。これを読むと、よくもまぁ、こんなにでたらめな記事が新聞や雑誌には平然と載るんだなぁ、と思わずにはいられない。メディアリテラシーを鍛えるという意味でも、第3部は必読である。
このブログでは何度も書いているが、日本の仕事観や労働市場は、はっきり言って狂っている。新卒至上主義といった悪しき習慣は放置され続けているし、非正規雇用では社会保険の加入にも制限がある。有給を100%取得することは夢物語であり、病気休暇は存在しない。サビ残という犯罪行為は放置され続けている。過労死事件が起こっても、使用者は書類送検だけで済む。こう言った深刻な問題に目を向けることなく、「ニートが急増中らしい、最近の若者は甘えている、けしからん、教育を施すべきだ」という議論ばかりしていては、いつまでたってもよい社会にはならないだろう。
「ニート」について、メディアの報道するような印象をただ漠然と持っているだけという人は、ぜひとも本書を読んで正しい知識を身につけて欲しいと思う。本書を読めば、「ニート」なんて言葉を軽々しく使えなくなるはずだ。
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余談であるが、本田先生の本は、この『軋む社会』もおすすめである。特に、〈やりがい〉の搾取という文章は働く人全員が必読だ。
- 作者: 本田由紀
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2011/06/04
- メディア: 文庫
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