脱社畜ブログ

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『ベーシック・インカム入門』書評

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「年末年始はベーシック・インカムの勉強をしよう!」と意気込んでは見たものの、親戚周りとその他の雑務で年末年始は見事に吹っ飛び、結局買い込んできたベーシック・インカム関連の本もほとんど消化できず、1月も終わる頃になってようやく1冊目を読んだのでとりあえず書評を書こうと思う。読み終えたのは、ベーシック・インカム入門』(山森亮である。

 

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

ベーシック・インカム入門 (光文社新書)

 

正直に告白すると、僕はベーシック・インカムについて、「国民全員が、働かなくても一定額国からお金が貰える制度」程度の認識しかなかった(実はこの認識は間違っていないのだが)。そんな僕も、本書を読むことで、ベーシック・インカムについての知識の幅は間違いなく広がったと思っている。そういう意味で、「ベーシック・インカム入門」というタイトルには一切の偽りがない。

 

ベーシック・インカムの議論は、実は様々な分野でなされている。ネット上だと経済学的な議論が多いような気がするが、「ベーシック・インカム」は本来、哲学、ジェンダー、グローバリゼーションなど、様々な文脈で議論されるものだ。本書は、そんな様々な視点から俯瞰的にベーシック・インカムというものを説明している。複数の視点からベーシック・インカムのことを考えるのは、理解を深めるのにとても役に立つ。

 

ベーシック・インカムの出自は様々だ。例えば、ひとつには「家事労働に賃金を」といったフェミニズム的な運動からベーシック・インカムが要求されるようになった。これとは別のものとして、「土地は本来全人類の共有物であり、万人がこれにアクセスできる権利がある」という自然権思想的な考えから、現在の私有に対する補償として、ベーシック・インカムが要求されるという考え方もある。ベーシック・インカムにたどり着く道筋はひとつではない。これらをたどっていくことは、ベーシック・インカムに対する賛否と関係なく、なかなか面白いものである。 

 

本書は、こういったベーシック・インカムを巡る様々なトピックを概観しているが、それでいて現在の社会保障制度の問題点などもしっかりと指摘しており、入門書としては非常に完成度が高い。特に、1章の生活保護の捕捉率に関する説明や、公立高校を例にした「選別型」社会保障の問題点などは、一読に値する。とりあえず、1章だけでもいいので、読んでもらいたいと強く思う。

 

もっとも、本書にも欠けている部分がある。具体的にベーシック・インカムを日本に導入するためのテクニカルな議論(いわゆる財源問題)は、あまりなされてはいない。あくまで「ベーシック・インカム」という理論についての入門書と捉えるのが適切だと考えられる。それでも、間違いなく良書である。

 

なお、本書を読んだ時点で、ベーシック・インカムを僕が支持するかどうかという点については、「とりあえず賛成」ということになる。少なくとも、今の日本の社会保障の仕組みに大きな欠陥があることは間違いない。特に、生活保護の捕捉率よりも不正受給の話ばかりがクローズアップされるような状況では、「選別型」の社会保障にはどうしても限界があると思えてしまう。

 

まだ1冊目なので、僕のベーシック・インカムの勉強はまだまだ続いていく。今後は、BIに批判的な本なども積極的に読んでいきたいと思っている。