昔、「趣味は読書」だと自称する学生と知り合ったことがある。僕も本を読むのはかなり好きなので、何かお薦めの本が無いか聞いてみたのだが、彼が挙げる本はビジネス書ばかりだった。「他のジャンルの本を教えて欲しい」と言ってみたのだが、彼は「?」という表情をして、僕の言っていることがよくわかっていないようだった。
この彼にとっては、読書=ビジネス書を読むことだったのである。こういう人は、意外といる。特に、意識の高い学生や、新入社員に多い。
本屋に行けば必ずビジネス書コーナーがあるし、毎月結構な数の新刊が発売されており、ビジネス書はこの出版不況の中でも、それなりに売れていることがわかる。しかし、僕の主観だと、中身のない薄っぺらい本ばかりな気がしてならない。「◯◯をしなさい」みたいなわかりきったタイトルの本を、お金を出して読む価値が果たしてあるのか疑問である。
この、『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』(漆原直行)は、そんなビジネス書をめぐる現状を、かなり面白くまとめた本だ。
- 作者: 漆原直行
- 出版社/メーカー: マイナビ
- 発売日: 2012/02/24
- メディア: 新書
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この本では、ビジネス書が出版不況の中で、珍しく売れる商品であることを出版の舞台裏を明かしながら説明した上で、振り回される読者、ビジネス書との賢い付き合い方などについて書いている。
毎月のように新刊が出るビジネス書の大半は、基本的に古典の焼き直し(というか劣化コピー)だ。本書では、ビジネス書の典型的なパターンや、よく元ネタにされる古典なども紹介されている。読んでおけば、「あぁ、この本はあの古典を下敷きにしてあのパターンで書いたな……」という感じで、ビジネス書をメタ的に見ることが可能になる。
Amazonのレビューを見ていると、この本は「面白いし、主張も正しいと思うけど、得るものがない」と言っている人がいるが、僕は決してそんなことは無いと思う。この本を読んで得られるのは、「視点」だ。この本を読むことで、「本を読んだら、何か得るところが無いといけない」といういかにもビジネス書的な価値観を、相対化することができる。少なくとも、中身の無いビジネス書を書店で買うことが少なくなるんじゃないか。1000円弱で、今後の浪費が抑えられるとすれば、悪くないだろう。
ビジネス書を読むのが好きな人は、ぜひこれを読んで「ビジネス書読む」という行為を相対化することをおすすめしたい。ビジネス書の熱心な読者でなくても、普通に知的好奇心を満たしてくれる本なので、ビジネス書を過去に一冊でも読んだことがある人には、広くおすすめだ。