おすすめの本の書評ばかり書いていてるのもどうかな、と思ったので、たまにはトンデモ本の書評も書くことにする。
『シュガー社員が会社を溶かす』(田北百樹子)は、脱社畜ブログが認定する記念すべきトンデモ本の第1号だ。もうタイトルからして、社畜的な匂いがプンプンする。ちなみに、僕はちゃんと全部読んでいるので、読まずに書評を書こうとしているわけではないと最初に断っておく。

- 作者: 田北百樹子
- 出版社/メーカー: ブックマン社
- 発売日: 2007/10/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 16回
- この商品を含むブログ (20件) を見る
まず、このシュガー社員という言葉は、筆者で社会保険労務士でもある田北百樹子氏によると、「仕事ができずに甘ったれで、周囲に迷惑をかけてもまったくそのことに気づかず、常に自分本位に物事を考えている」社員のことを指すらしい。田北氏によると、このようなシュガー社員が近年増加しており、その背景には「好景気を甘受してきた親」「偏差値重視の末に迷走した学校教育」「ITによるコミュニケーション不足」「能力主義に伴う転職志向」があるそうだ。
いきなり、本当か?と疑ってしまうような主張である。これは典型的な、最近の若者はダメだ論である。しかも、いわゆるシュガー社員が増えているという数字に基づいたデータを出すわけではなく、シュガー社員が生まれるメカニズムについての説明になっていない説明は30ページほどで終了し、あとは延々と「私が聞いた事例で、こんなのがありますよ」というものがひたすら列挙されている。よくできた新書のような内容を期待するとガッカリする。
そして、30ページ以降続くシュガー社員の分類が酷い。田北氏によると、シュガー社員は以下の5系統に分類できるのだそうだ。
- ヘリ親依存型
- 俺リスペクト型
- プリズンブレイク型
- ワンルームキャパシティ型
- 私生活延長型
うーん、「プリズンブレイク型」なんて、もう完全におばちゃんのネーミングセンスだ。ワンルームキャパシティ型、やヘリ親依存型は、説明を聞かないと何を指すのかよくわからないだろう。とりあえず、これらの言葉が日本社会で定着することは無いということは断言できる。
シュガー社員の信じられない行動として列挙されているものの中には、社員が正論を言っているケースも含まれている。たとえば、勤怠連絡をメールでしてくる困ったシュガー社員がいる、というエピソードがあるが、勤怠連絡なんて絶対にメールで十分である。また、結婚した社員が定時に帰ろうとしているのを悪く書くようなくだりもあって、はっきりいって不愉快だ。仕事最優先以外は認めない、という狭量な価値観が垣間見えて、こう思う人がいる限り、日本の仕事観はまだまだよくはならないな、と思ってしまう。
そもそも、仕事ができないダメ社員、というのは昔から一定数いたはずである。この本は典型的な若者バッシングと昔からいたダメ社員を一緒にしただけの本だ。「私の周りにこんな困った人がたくさんいます」というのを列挙しただけで、とくに目新しい指摘や考察などがあるわけではない。
著者近影にはご親切にも「シュガー社員の名付け親」と書かれているが、面白いことに、この言葉はまったく普及してない。頑張って流行らせようとしたけど、結局流行らなかったというわけだ。ブラック企業、という言葉がもはや一般化しているのとは対称的である。そういう意味でも、シュガー社員が増えているという主張は怪しい。単なる世代間の軋轢であり、こんなものはいつの時代にも一定数存在していたはずで、わざわざ本に書くようなことではない。
本書の有用な読み方として、社畜思考の見本市として読むというのが考えられる。各エピソードに出てくる先輩や上司は、典型的な社畜思考に染まっていて、面白いくらい会社側の人間として発言・行動している。こうはなりたくないな、と反面教師的に読むと、結構面白い。このような読み方をするなら、読むのもアリだと思う(買うのは勿体ないので、図書館で借りるのがおすすめ)。

- 作者: 長谷川英祐
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2010/12/21
- メディア: 新書
- 購入: 63人 クリック: 995回
- この商品を含むブログ (82件) を見る