本屋に行けば、「成功」という言葉がタイトルに入った自己啓発本やビジネス書が嫌でも目に入る。Amazonで「成功」というキーワードで本を探せば、10000件を超える商品がヒットする。こんなに成功があふれていると、成功というのは実はだいぶ安っぽいものなんじゃないか、という気すらしてきてしまう。
この「成功」という言葉は、曖昧でつかみどころがない。そもそも、何をもってして成功とするのかは、その人の置かれている状況や、価値観によって異なるはずだ。自己啓発書やビジネス書的価値観の「成功」が、必ずしも万人にとっての成功ということにはならないということは、そろそろ広く知られてもいい。
例えば、一流の上場企業で出世して、役員になる。あるいは、起業して、その会社を上場させる。こういうのが、自己啓発書的価値観における成功の典型だと思うけど、世の中の人の全員が全員、こういうことがしたくて生きているというわけではないはずだ。
上場企業で役員になったり、起業した会社を上場させることで、得られるものは確かにある。しかし、失うものもある。例えば、この手の「成功」を手にした人の多くは、仕事以外のこと、家族や自分の趣味に、どのぐらいの時間が割けるのだろうか。ほとんどの場合は、仕事が忙しくなりすぎてしまって、あんまりこういうことに時間が割けなくなっているのではないだろうか。これを是とするかどうかは、あとは価値観の問題だ。そして、世の中の人の全員が全員、これを是とするとは到底思えない。
仕事より家族や自分の趣味を上位に置く人にとって、仕事上の成功は人生の成功を意味しない。そして、成功を謳う自己啓発書やビジネス書は多くの場合、このことが全く考慮されていない。仕事で成功することと、人生で成功することは別の問題だということは、ちょっと考えてみれば当たり前なのだけど、あまり強調されているのを見たことがない。企業は従業員に、このことをわざと考えさせないようにしている節すらある。仕事で成功できないやつは、人生でも成功できないという、間違った先入観を植え付けようとしているのではないだろうか。
楽天は、就活生に三木谷社長の『成功のコンセプト』や『成功の法則92ヶ条』を読ませることで有名で、これに共感して入社志望度を上げる学生も多いという。一方で、楽天の離職率の高さや勤続年数の低さも有名で、新卒営業の50%が半年以内に辞めるそうである。これは、学生が仕事での成功と、人生の成功というものを混同してしまった結果のような気がしないでもない。
日本では、仕事での成功と、人生の成功はベクトルが一緒であるかのような言説がなされることが多いけど、これは明確に違うということを僕は強調しておきたい。たまたま一緒だった人もいるというだけで、一緒じゃないから駄目だなんてことはない。
自分にとっての「成功」は何なのか、一度仕事を抜きにして考えてみてもよいと思う。

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