株式会社ファーストロジックの新卒採用サイトのブラック感が半端ないということで、昨日から話題になっている。
情報商材のようなレイアウトや、小林よしのりのゴーマニズム宣言を彷彿とさせるようなマンガがついているなど、ネタ感が満載であり、きっと悪ノリで作ったのだろうと思われる内容である。新卒採用サイトなのに「学生」として就活している方はお断りです、などと書いてあって、一体何を言っているんだという気もするが、まぁネタならしょうがない。
ただ、このサイトを単なるネタとして流すのはちょっと惜しい。なぜかというと、このサイトのマンガに書かれている論理は、「いわゆる」ベンチャー企業が新卒の学生を募集するときに使われる典型的なものであり、大いに参考になるからだ。明らかにブラックで、やりがい搾取の類だと一発で気づけるだけ、ファーストロジックの採用サイトは良心的だと言ってもよいかもしれない。世の中の「いわゆる」ベンチャー企業は、ここのマンガに書かれていることと全く同じ論理で社員に過重労働を強いているにもかかわらず、それを巧妙に入社まで隠したり、お茶を濁したりするからたちが悪い。
僕は、ファーストロジックの新卒採用サイトは「いわゆる」ベンチャー企業が、社会をよく知らない学生を搾取するための手法を学ぶ教材として、非常に優れいていると考える。この話の展開の仕方はを覚えておくと、後々社畜的思考に染まらずに済むだろう。以下で、簡単に流れを説明しよう。
まず、この手の会社は、日本の典型的な雇用感を批判するところからはじめる。終身雇用は崩壊寸前であり、もうそういうぬるま湯に浸かるような安定志向では、生き抜くことはできないということを説く。ここまでは、実際そのとおりなのだが、このことを必要以上に「仕事は厳しい」ということに結びつけようとしてくるのが彼らのお決まりの手法である。ここで、労働基準法無視の労働もやむをえない、ということのエクスキューズをしているわけだ。
仕事の厳しさを強調した後は、その見返りに得られるものとして、「やりがい」や「成長」があるという方向に話は進む。ベンチャーならではのスピード感や責任感が必要以上に強調され、大企業ではこういったものは得られない、というような説明がなされる。このように、「やりがい」や「成長」が得られることはこれでもかというほど強調されるが、金銭的な報酬の話はたいていうやむやにされる。例えば、ファーストロジックのサイトを見ると分かるが、「厳しい反面あなたの成果は必ず還元します」とあるものの、それが果たして給料で還元されるのかという点がここからだとよく分からない。すぐにやりがいとか成長の話に戻ってしまっているので、成果の分、正当な報酬が貰えるということはおそらくない。実際には、さらにやりがいのある仕事を与えて、成長を促す、みたいなありがた迷惑な還元の仕方だと思われる。
以上を簡単にまとめると
終身雇用の崩壊・実力社会の到来を煽る→仕事の厳しさを強調(徹夜・休日出勤・サビ残もしょうがないよね)→見返りとしてのやりがいの強調(肝心な金銭的な報酬についてはうやむや。成長できるからいいよね)
といった流れである。
こうやって並べて書くと、典型的なやりがい搾取を狙っていることがよくわかるのだが、就職説明会などで情熱溢れる社長や先輩社員にこの話をされると、なぜかコロッとダマされてしまう人がいるからおそろしい。どうか、みなさんは引っかかったりしないようにしていただきたい。
「やりがい」や「成長」と言った、定量的でない指標を提示して、肝心な金銭的報酬についての話を避けようとする企業には注意しなければならない。やりがいや成長だけで飯は食えないし、そんなものは会社に与えてもらうものではないのである。

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