以下は、いま話題になっている生活保護に関する記事である。
生活保護は増えてないし、もっと大事なことは増えて何が悪い、ということ - 猿虎日記(さるとらにっき)
http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20121213/p1
生活保護の議論で僕が問題だと思うのは、この記事のようなデータに基づく議論がほとんどなされず、印象ベースの議論がずっと続いているということである。「生活保護の不正受給が、いま問題になっている」という主張をする人がいるが、統計的にそれは正しくない。重要なことだと思うので、上記記事が引用している日弁連パンフの解説を再掲する。
(前略)不正受給の割合でみると、件数ベースで2%程度、金額ベースで0.4%程度で推移しており、大きな変化はありません。また「不正受給」とされている事例の中には、高校生の子どものアルバイト料を申告する必要がないと思っていたなど、不正受給とすることに疑問のあるケースも含まれています。
生活保護で真に問題とすべきなのは、不正受給ではなく、本当に生活保護が必要な人たちが生活保護を受給できていないということである。これは、ニートに関する議論と構造が全く同じだ。いわゆる「働いたら負けかなと思っている」型のニートは別に増えているわけでもなんでもないのに、マスコミがセンセーショナルに取り上げることで大きな問題として取り扱われるようになり、それによって真に問題とすべき若者の就労不安の問題などが、放置されてしまっている、という状況とかなり似ている(詳しくは、以前紹介した『「ニート」って言うな!』(本田由紀・内藤朝雄・後藤和智)を参照して欲しい)。
生活保護叩きは、2ちゃんねるをはじめとしたネット上の至るところで行われているが、面白いのはこの人たちが別な場所で「メディアリテラシーを身に付けろ」とか「マスゴミに騙されるな」とか言っているということである。「朝日新聞の偏向報道を許すな」とか、「韓流ゴリ押しのテレビ局に騙されるな」とか言っている一方で、この件に関しては思いっきりマスコミに踊らされまくっているのが、僕にはかなり滑稽に思える。
結局のところ、生活保護叩きをしている人たちは、生活保護を叩こうという結論が先にあって、そのために利用できる論調なら大嫌いなマスコミのいうことでも利用しようとするし、逆に生活保護を擁護するような主張に対しては、どんな定量的な指標が用意されていても顔を真赤にして反論してくる。生活保護を叩くためなら、憲法だって改正しかねない勢いである。こういった人たちと、冷静な議論をするのはものすごく難しい。
生活保護叩きは日本人の精神構造の根底にある「足の引っ張り合い精神」に理由のひとつがあるだろう、と僕は思っている。自分は面白くない仕事に従事して毎日毎日辛い思いをしているのに、働かずに税金で生活しているやつが許せない、という考えだ。これは、職場において有給取得者を逆恨みしたり、残業せずに定時で帰宅する人に対して「みんなが忙しく仕事をしているのに、自分だけ定時に帰宅しやがって、非常識だ」と言ったりすることと根底は一緒である。自分だけが不幸なのが許せない、他の人もみんな不幸じゃなければ嫌だ、という足の引っ張り合いが社会全体に拡大した結果が、今の生活保護叩きなのではないだろうか。
生活保護は、日本国民全員のためのセーフティーネットであるということは忘れてはならない。生活保護を必死に叩いている人も、いつ自分がそのセーフティーネットを活用する立場になるかわからないのである。生活保護削減を支持するような世論を作ることで、結果的に自分の首をしめてしまう可能性があることを、この人達はわかってやっているのだろうか。
生活保護については、感情的ではない、もっと冷静な議論がなされることを願ってやまない。

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