数日前に話題になった、ヨーカ堂の「正社員半減」に関するニュースを読んでいたら、そのあまりにも酷い中身に腹が立ってきた。
ヨーカ堂「正社員半減」の挑戦 パートに託す命運
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1902K_Z11C12A2000000/?dg=1
ヨーカ堂のやっていることは、単なる業績悪化に伴う人件費削減にすぎないのだが、それがまるで美談であるかのような書きっぷりをしているところが、いかにも日本の「労道」という感じがする。給与や待遇よりも、やりがいがある仕事を与えることが一番いい、とでも言うかのような書きっぷりである。
特に酷いと思ったのが、以下の部分。
能力とやる気を引き出すには正社員以上に強烈なインセンティブが必要だ。今回の改革でも上級職「ベストリーダー」を新設する予定だが「給与体系の見直しなどはこれから」(ヨーカ堂)。
人件費を抑えながら、やる気と売上高を伸ばす待遇の最適値は――。来期20店に広げるパート9割店舗。売り場の最前線で答えを手探りする。
(強調は日野瑛太郎)
「人件費を抑えながら、やる気と売上高を伸ばす待遇の最適値は――」と持ってまわった言い方をしているが、要は「どれだけ安い給料で、見返り以上の仕事をさせられるか」の限界値を探っている、という話である。あまりにも典型的な「やりがいの搾取」であり、小学校・中学校あたりで注意喚起のために進路指導の時間に教材として使ったらいいんじゃないか、と思うぐらいである。
このように、給与や待遇が上がらないのにもかかわらず、責任だけは過剰に要求されるというのはどう考えてもおかしいのだが、この国ではこの手の話が本当に多い。例えば、先日書いた季節限定商品の販売ノルマを担うコンビニアルバイトの話もそうである。こんなふうになってしまう理由はいくつか考えられるが、僕はやはり学校やマスコミが仕事の「やりがい」の面を強調しすぎていて、「それによって金銭を得る」という部分が軽視されがちになっていることに大きな理由があると思う。
「仕事は金のため」と言うと、何だか残念な人だと思われてしまうような風潮がこの国にはあるような気がするが、誰がなんと言おうと仕事の基本は「金を稼ぐこと」である。仕事にやりがいを求めたい人は別に求めればよいと思うが、それはあくまでおまけだ。以前も書いたが、仕事にやりがいを求めすぎると労働力のダンピングにも繋がるし、世の中の人が全員が全員、やりがいを感じられる仕事に就けるはずもない。そういう限界が明らかなのに、「仕事は金じゃなくてやりがい」という意見を大衆に喧伝し、教育の場で刷り込もうとするのは、詐欺に近いものがあると僕は思う。
過度の責任を求められたら、自分がそれに見合うだけの給与や待遇を受けているかを、一度考えてみたほうがいい。対価がお金ではなく「やりがい」や「成長」で払われているのだとしたら、それは間違いなく騙されている。

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