就職活動において、企業が学生に求める能力の定番に、「コミュニケーション能力」がある。経団連の実施した「新卒採用(2012年4月入社対象)に関するアンケート調査結果」によると、企業が採用選考時に重視する要素の第1位は 、9 年連続で「コミュニケーション能力」だったそうだ。多くの企業が、採用において学生に「コミュニケーション能力」を要求しているということがわかる。
経団連:新卒採用(2012年4月入社対象)に関するアンケート調査結果の概要
http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/058.html
学生側にも、コミュニケーション能力をアピールしなければならない、という意識はあるようで、「サークルのリーダーとして云々」、「アルバイトにおいて云々」、「学生団体を立ちあげて云々」などなど、ありとあらゆる方法で自分にコミュニケーション能力があることをアピールしようとする。漫画家の福満しげゆき先生が、『就活のバカヤロー』(石渡嶺司・大沢仁)という本に以下のような帯漫画を書いてあるが、自分にコミュニケーション能力があることをアピールしようと必死になって、結局この漫画に近い状態になっている人も下手したらいるんじゃないだろうか、という気がしてくる。
会社は人が集まって協力して仕事をする場所なので、一切のコミュニケーションを取らずに完遂できる仕事というのは、基本的には無いと思ってよい。そういった意味では、会社員になるにはコミュニケーション能力は必要ということになる。しかし、どれだけのコミュニケーション能力が必要か、ということについては、会社の規模、社風、業種、職種によって様々というのが実際のところだろう。それこそ、組織をまとめたり、顧客と交渉をしたりといった行動なコミュニケーションが求められる仕事から、最低限の報告や連絡が出来れば十分、という仕事まで色んな仕事がある。
「コミュニケーション能力」をめぐる議論の問題点は、このように本来ならば職種や業務内容によって個別具体的に必要なレベルが変化するはずの「コミュニケーション能力」を、普遍的なスキルとして捉えてしまっていることである。確かに、どんな業務であっても問題なくこなせるような、オールマイティな「コミュニケーション能力」の水準は存在するかもしれない。しかし、そのような水準を全員に求めるのは明らかに要求過剰であるし、また、そうする必要もない。現実には全員がそこまで身に付ける必要はないのに、この最高水準の「コミュニケーション能力」を身に着けていなければどこにも就職できない、といったような印象を持たせるような就職指導や、アンケートは正直いかがなものかと思う。
結局は、自分が就職後にすることになる仕事に必要とされるだけのコミュニケーション能力を身につければ、それで十分なのである。もっとも、現状の「実際に就職して配属を受けるまでは、どんな仕事をするか分からない」という新卒採用のシステム下では、これを判断することはできない。そのために、誰もが最高水準のコミュニケーション能力を求められ、それに苦しむことになる。こんなに、非効率で不幸な話はない。このシステムは、変えていく必要がある。

- 作者: 大沢仁,石渡嶺司
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