「ブラック企業」という言葉は、もうだいぶ定着した感じがする。元々は「暴力団のフロント企業」というイメージが持たれる言葉だったそうだが、今ブラック企業と聞いてこちらの意味を思い浮かべる人はあまりいないだろう。ブラック企業に就職したために、奴隷のような労働や理不尽を強いられ、さらにはキャリアを台無しにされた、という話はよく聞く。
このように、ブラック企業によって「個人」が害されるという話は頻繁に耳にするが、さらにこれを一歩先に進めて、ブラック企業の「社会的な害」にまで踏み込んで書かれているのが、今日紹介する『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(今野晴貴)だ。

- 作者: 今野晴貴
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/11/19
- メディア: 新書
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本書の著者である今野晴貴さんは、労働相談を行なっているNPO法人POSSEの代表を勤めている方だ。本書の前半部分では、「個人」がブラック企業によってどのように害されるのか、そして「個人」はどのようにしてブラック企業に立ち向かえばよいのか、という内容を扱っている。POSSEに寄せられた相談や実際に起きた事件などを元に、説得力のある記述がなされており、就職活動中の方や、あるいは会社で働き始めたばかりの若い方は、自分の身を守るために知っておいたほうがよいと思う内容や考え方が載っているので、目を通しておくことをおすすめしたい。ブラック企業のやり口を知っておけば、万が一の時に「悪いのは自分ではない」ということに気づくことができる。
このように「個人」がブラック企業にどう対処するか、という情報だけでも十分価値があると思えるが、本書はそれだけでは終わらず、後半部ではブラック企業が「社会」にどういった害をなすのか、そして社会はどうやってブラック企業と戦うべきなのか、といったところまで踏み込んでいく。本来は企業が負担すべきコストをブラック企業は社会に転嫁しているといった話や、ブラック企業の違法行為のしわ寄せは従業員だけでなく消費者にまで及びうるといった話は、今まではそれほど議論されなかった内容である。「俺の勤めている会社はブラック企業じゃないから関係ない」と思っている人も、ぜひ「社会問題」としてこの問題を考えてみてほしい。そして、どんな会社もブラック企業になりうるということを知るべきである。
ブラック企業の問題は、「一部そういったブラックな会社があるので、就活生は引っかからないように」といったような、運の悪かった人の問題として認識されやすいが、本書はそれが明確に間違いであることを気づかせてくれる。ブラック企業の問題は単なる一部の違法企業の暴走ではなく、僕たちの社会が抱えている「病気」であり、早急に対処が必要な問題だということに一人でも多くの人に気づいてほしい。そういう意味で、本書は一人でも多くの人に読んでもらいたいと思える本である。