埼玉県の公立学校教員110名が、退職手当減額の前にかけこみ退職を希望しているそうである。そのうち30名は学級担任のようで、埼玉県知事はこれについて「2か月も残して辞めるのは無責任のそしりを受けてもやむを得ない」と批難しているとのことだ。
退職金減額前に教職員大量退職
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130122/k10014967521000.html
教員駆け込み退職希望、30人は学級担任…埼玉
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130123-OYT1T00015.htm
退職金少しでも多く… 教諭の駆け込み退職続々 埼玉
http://www.asahi.com/national/update/0122/TKY201301210540.html
ニュースによると、1月末に退職に踏み切れば、受け取れない2月、3月分の給与を差し引いても、70万円多くもらえることになるようだ。経済合理的に考えれば、退職金が減額されるのを手をこまねいて見ているよりかは、さっさと辞めてしまったほうが間違いなくよいということになる。僕が同じ立場なら、躊躇せずに退職するだろう。
僕がこのニュースで違和感があるのは、こうやって純粋に経済合理的に判断して駆け込み退職に踏み切った教員を、「無責任だ」と批難している人がいることだ(例えばこの人とか)。「2ヶ月間余分に働いた上に70万円も貰える額が少なくなる」という状況を受け入れなければ「無責任」というのはあまりにも酷いのではないだろうか。「全体の奉仕者」である公務員といえども、無賃労働に従事するボランティアではないのである。働いた分だけ貰えるお金が減るのであれば、辞めて当然だ。
「学年の途中で教員が辞めたら、生徒は混乱する」という意見はごもっともだが、これで辞めた教員を批難するのは筋違いだ。退職希望を出している教員は、ただ単に合理的に行動したに過ぎない。批難すべきは、経済合理的に行動すると学年の途中で教員の交代が生じざるを得ないようなシステムの方である。そもそも、なぜわざわざ混乱が生じ得るような年度の途中に実施したのか理解に苦しむ。
実は今回早期退職を申し出たのは、定年予定者の10%に過ぎない。上田知事はこれについて「予想より3倍多い」とコメントしているが、むしろ僕は少なすぎることに驚いた。90%の人は2ヶ月多く勤めることで逆に損をするという状況なのにもかかわらず、辞めようとはしていないのである。これはなかなか興味深い。
この90%の人達は、本当は辞めたいけど批難が退職後に及ぶことをおそれて辞められないのかもしれない(死ぬまでずっと「責任感がない」と影で言われ続けるとしたら、確かに70万円を投げ売ってでも最後まで勤めるという選択をしたくなる気持ちはわかる)。だとしたら、さすが社畜の国である。個人的には、ここは先生自ら「給料が減るならやらない」という姿勢を見せて、「働くこと」の意味を生徒に教えるほうがよっぽど教育的効果が高いと思うのだが、こう考えてしまうのは僕の心がひねくれているのだろうか。

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