就職活動の際に、会社四季報などで受ける企業の業績を必死に調べている人がたまにいる。中には、有価証券報告書のようなIR資料を読み込んで、学生というよりは投資家のような行動を取っている人までいる。
受ける会社の業績を事前に知っておくことは、別に悪いことではない。業界内での立ち位置などは当然知っておくべきだろうし、ろくに調べずに、1年持たずして潰れそうな会社に就職するのはさすがに避けるべきだ。勘違いの無いように言っておくと、僕は会社の業績を就活の際に調べるなと言っているわけではない。調べることがマイナスに作用することは無いので調べたいと思ったら調べてよいと思うし、調べられる力自体はもちろんあったほうがよい。
ただ、会社の業績を調べる目的が、「業績のいい会社に入ろう」とか「成長中で勢いのある会社に入ろう」なのだとしたら、注意が必要である。あなたは「業績の良い、成長中の会社」に何を望んでいるのだろうか。「安定」や「よい職場環境」を望んでいるのであれば、これは実現しない可能性が高いと思ったほうがよい。会社の業績のよさと、職場環境には相関は無い。あえて言うなら、若干の負の相関があるような気さえする。
例えば、たびたびネットでブラックな噂が流れる楽天やユニクロも、業績がよい成長中の企業である。業績がよければよいほど職場環境がよくなるのであれば、こういった企業から黒い噂がたつのはおかしい。資本主義のルールでは、会社が稼いだ利益は従業員ではなく株主に還元されることになっており、業績のよさと、従業員の待遇とはまた別問題なのである。
業績がよくて成長中の会社は、その成長を維持するために従業員に大きな負担を強いていることも少なくない。単純に考えれば安い給料で大きな利益を上げれば上げるほど、会社の業績はよくなるわけなので、調子のよい会社ほど、職場としてはブラックである可能性が日本の場合は大きい。業績と職場環境に、「若干の負の相関がある」といったのはこのことだ。
もちろん、好業績をきちんと従業員にも還元しようという会社もあることにはあると思う。しかし、それはあくまで一部に限られるというのが現状だ。就職の際には、業績だけでなく職場環境までしっかりと調査をしたほうがよい。
ちなみに、好業績で、大量に新卒を採用しようとする会社は黄色信号である。こういった採用の仕方には、「とにかく人が足りない、とるだけとってあとで選別しよう」という考えが背景にあるおそれがあり、入るや否やろくに研修もされない状態で過酷な業務に投じられ、体や心を病んだ時点でポイと捨てられる、といったような非人道的な仕打ちを受けるおそれがある。こういう会社を受ける時は、離職率をしっかりと調べて、社員が具体的にどのような働き方をしているのかを突っ込んで調べてみるべきだ。
会社選びの際には、会社の業績に過度に引きずられないように気をつけよう。「好業績」を作るために、社員が犠牲になっているのだとしたら、そんな会社に入る必要はない。

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