僕には、年齢の離れた弟が一人いる。僕と弟は、本当に血のつながりがあるのか疑わしいくらい、ステータスが正反対だ。僕は勉強が比較的得意で、運動神経が絶望的になく、非リア充で女の子にもてない。一方で弟は、勉強が絶望的にできず、運動神経抜群で、リア充で女の子にもてる。ちょうど僕を(A)とすれば、(¬A)が弟である。2人を足すと、面白みのない平々凡々とした人間ができあがることだろう、と昔からよく言われていた。
弟はいわゆる「不良」で、中学校時代から素行に問題があり、高校は最後まで行けずに中退している。中退後は、家で毎日14時間寝た後にひたすらテレビゲームに没頭するという自堕落な生活をしばらく送った後に、高卒認定試験を受けて、なんとか地方の私立大学に潜り込んだ。大学では特に問題行動に走ることもなく、それなりに生活しているらしい。
盆や正月に帰省をしても、なぜかお互い微妙に日程が合わず、ここ2年くらいは会っていなかったのだが、つい最近あることがきっかけで、久しぶりに弟と会った。
数年前に会った時は、髪は金色、耳にはピアスと、身内でなければ絶対に目を合わせたくないような、一言で表現するなら「DQN」的な格好をしていたのだが、今回会った時には、ピアスは取り払われ、髪も黒色に戻って短く刈り込まれていて、なんだかだいぶ落ち着いた格好をしていた。なぜそんな格好をしているのかと聞いてみると、そろそろ就職活動を始めるから、という答えが返ってきた。
僕は、弟の性格的に、就活なんてするはずがないと思っていたので、彼が就活のために人並みの準備をしていることにとても驚いた。話を聞いてみると、業界地図を買って業界研究を真面目にやっているとのことである。履歴書用の写真を写真屋で撮ったりもしていて、どこにでもいそうな普通の就活生になっていた。
珍しく真面目に物事に取り組もうとしている弟に、「就職活動なんてくだらないぞ」と水をさすのもどうかと思ったので、余計なことは言わずに、ひとつだけアドバイスをすることにした。僕がしたアトバイスは、
「キレるべきところでは、今までと同じようにしっかりキレろ」
ということだ。
中学や高校の時、弟は周囲の大人や家族に対して、よくキレていた。彼の怒りの沸点は低く、だいぶ迷惑もしたので、もう20歳も過ぎたことだし日常生活でキレるのはやめてほしいのだが、一方で、理不尽なことには今後もしっかり怒ってほしいと思っている。
就職活動、あるいは会社に就職すると、学生時代には想像もつかなかったような理不尽の数々を目にすることになる。こういう理不尽を我慢してこそ「社会人」という風潮があるが、僕は弟にそういうふうにだけはなってほしくない。会社に就職することは、会社に隷属することではない。理不尽なことには、一人の人間として、きちんと怒りを表明していって欲しい。
…そんな話をしたら、「当たり前だろ」と返されてしまった。「圧迫されたら圧迫仕返すから任せろ」とまで言われ、外見は真面目そうになっているが、中身はそれほど変わっていないようなので、兄は大いに安心した。
彼が本当に内定を獲得できるか、仮に内定が得られたとしても、その会社がまともな企業なのか、ということは正直わからない。こんなご時世だし、弟の大学はお世辞にも偏差値が高いとは言えず、だいぶ苦戦することになるだろうとは思う。それでも、自分を曲げるようなことはせずに、精一杯やってくれれば兄としては言うことはない。こっそり応援している。

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