脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

「やりがい」というインセンティブ

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先日、『ヤバい経済学』という本を読んだ。

 

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

 

 

映画化もされた有名な本なので、ご存知だという方も多いと思う。本書は「相撲に八百長があるのは本当か」とか「銃とプール、本当に危険なのはどちらか」といったような、実社会の疑問に経済学の手法を駆使して挑んでいる。特に一貫したテーマがあるわけではないのだけど(それは筆者も認めている)、どの問題も切り口が斬新で非常に面白い。普通は慎重に語らざるを得ないテーマにも果敢に斬り込み(人種と教育レベルの関係であるとか、妊娠中絶と少年犯罪の関係であるとか)、あくまでも「データ」に基づいた答えを出そうとする姿勢にはとても共感できる。

 

読んでいて特に面白いと思ったのは、いわゆる「インセンティブ」の概念を金銭以外にも拡張して考えているところだ。本書では、インセンティブを金銭的インセンティブ社会的インセンティブ道徳的インセンティブの3つとし、それによって人の行動を説明しようとする。

 

例えば、本書に書いてあった話でこういうものがある。ある保育園で、預けた子どもを迎えにくる時間に遅刻してくる保護者がいることが問題になっていた。対策として、保育園は遅れてきた保護者には罰金を課すことに決めた。これで遅刻は減るかと思いきや、制度の導入によって遅刻する保護者は減るどころか、逆に増えてしまった。

 

本書は、これを罰金制度の導入によって、道徳的インセンティブが金銭的インセンティブに置き換えられてしまったと説明する。なるほど、これはだいぶ納得のいく考え方だ。例えばレンタルビデオ屋で、延滞金を払う代わりに店員さんに「あなたのせいでこの商品が借りられない人がいっぱいいるんですよ」とお小言を言われ、一生懸命謝らなければならないとしたらどうだろう。あるいは、あの人は借りたものもちゃんと返せない人だと近所で噂になるとしたら。少なくとも僕は、単に延滞金を払う場合よりも、返却期限には遅れないように一層気をつけなければならないと思ってしまう。

 

このようにインセンティブの概念を拡張すると、金銭が伴わないような行動も、インセンティブによって説明できるようになる。例えばボランティア活動であるとか、選挙の投票なんかがそうだ。

 

この「インセンティブの概念を拡張する」という考えから僕が真っ先に思い浮かべたのが、いわゆる仕事の「やりがい」というインセンティブである。世の中には、「給料は別にそんなにいらない、それよりも『やりがい』のある仕事がしたい」といったような、「やりがい」というインセンティブで動く人たちがいる。これが「働くことは尊いことだ」という類の勤労観から来てるのであればそれは道徳的インセンティブということになるだろうし、「バリバリ仕事する俺カッコイイ」とか「職場でみんなから頼られたい」というような承認欲求あたりから来ているのであれば社会的インセンティブということになるだろう。こう考えると、この手の人たちの行動もインセンティブで説明がつくことになる。

 

別に人がどんなインセンティブに惹かれようと、それは単にその人の個性だ。ただ、ひとつ気持ち悪い気がするのは、そうやって金銭以外のインセンティブで人を集めた企業の活動が、営利追求という金銭を得る活動以外の何物でもないということである。従業員は道徳的インセンティブや社会的インセンティブによって動き、企業は金銭的インセンティブによって動く。どうもこの「捻れ」が、やりがい搾取の基本的な土台になっているように思える。

 

…と、例のごとく労働の話になってしまったが、そういう話は抜きにしてもとても面白い本です。未読の方はぜひ。