脱社畜ブログ

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晩婚化・非婚化と少子化について:『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』

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こちらのニュースを見て、そういえば少し前に、少子化について下記の本を読んだことを思い出した。 

少子化について書かれた本は少なくないが、その中でも本書はファクトベース、統計に基づいた議論をすることに終始しており、そういう点で少子化について考える上で基本書にしてよい本である。

 

少子化の原因について、よく言われるのが「女性の社会進出とそれに伴う仕事と子育ての両立困難」というもので、これはたしかにひとつのファクターとして考えられるのだが、もちろん考えられる原因はそれだけではない。本書では、ざっと10個ほど考えられる原因を上げた後に、では実際にどのファクターがどれだけ影響を与えている可能性がるのかを統計情報などに基づいて考察し、その上で我が国の取っている少子化対策についてそれが適切であるかの考察を加える。

 

「保育園落ちた日本死ね」の記事に象徴されるように、ネット上には「子育てと仕事の両立困難」に対する意見や情報が多い。これは別に悪いことではないし、実際に困難なのは事実であって改善の取り組みは続けていかなければならないが、本書が少子化の大きなファクターとして指摘するのはその前の段階、すなわち非婚化・晩婚化である。この話は人口学の世界では常識らしいのだが、不勉強な僕は恥ずかしながらあまりそういう認識をしたことはなかった。

 

いい加減な要約をすると本書の価値を減じてしまうのでぜひ本自体を呼んでほしいと思うのだが、本書の指摘はある意味ではシンプルであり、要は非正規雇用などの低収入で働く若年層が増加することで、若者が結婚願望自体を抱かなくなっているということである。怒られるのを承知で単純化してしまえば

 

正社員になれない→金がない/将来不安→結婚は無理(したいとも思わない)→子供が減る

 

という話である。つまり、(やはりこれも単純化しすぎているが)若者に将来の不安がない程度に金がまわるようになれば少子化問題はある程度、好転するということが言える。行き過ぎた近代化であるとか、価値観の変遷であるとか(価値観で言えば、本書ではトラディッショナルな結婚感が未だに人工構成の多数を占めていることが示される)、よくネット上でされる論考は間違っているとは言わないまでも、量的には実はそんなに影響が大きいものではない。

 

一点、注意が必要なことがあるとすれば、本書が書かれたのは2013年でありちょっとだけ古いという話である。ゆえに、本書に載っている統計は最新データではないのだが、本書で使用されている統計の多くはネットで探せば最新のデータが入手できる。僕も本書を読みながらいくつか見てみたが、著者の主張を大きく覆すような劇的なデータの改善が行われた例は特にないように見られたので、著者の主張は今でも妥当であると考えてよいだろう。

 

本書刊行時点(2013年)と現時点での大きな違いを挙げるなら、本書刊行時点ではまだアベノミクスが本格化していなかったという点が挙げられる。少なくとも株価はだいぶ持ち直したし、「人手不足」が叫ばれるようになり、有効求人倍率も大きく回復した。では、これで少子化問題は好転していくのかというと、基本的にそういうわけではないように僕には思える。

 

数字上は一見、回復したかに見える若者の就業率の実態は非正規雇用が未だ中心であり、彼らの将来不安は未だ払拭されない。大規模な金融緩和をしてみたものの、未だに目標としていた物価上昇率は達成できず、取りうる選択肢は確実になくなりつつある。米中の貿易戦争の火種も消えず、世界経済の先行きは不透明だ。アベノミクスが頓挫すれば、少子化はいよいよ取り返しがつかない段階まで進むだろう(取り返しがつかない段階はとっくに過ぎているという指摘もあるが)。

 

この記事では主に非婚化・晩婚化を中心に内容を紹介したが、本書のカバーする範囲はそれにとどまらず、いわゆる従来的な子育てと仕事の両立支援などについても扱っている。少子化問題について考えるなら、ぜひ最初の一冊として手にとってみることをおすすめしたい。