脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

『となりのクレーマー』書評:クレーム対応というエクストリームスポーツ

クレームをつける人の心理が知りたくて以下の本を読んだのだけど、なんだかものすごく面白かったので純粋に「面白かった」という書評を書くことにする。出版は2007年なので5年以上前の本なのだが、今でも十分内容は通用する。

 

となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ)

となりのクレーマー―「苦情を言う人」との交渉術 (中公新書ラクレ)

 

 

著者の関根眞一さんは元百貨店の「お客様相談室長」で、過去に処理したクレームの数は約1300件。まさにクレーム対応の「プロ」である。百貨店には日々多数の苦情やクレームが寄せられるが、この本に載っているクレームの事例はその中でもハイレベルなものが多い。たかり目的のヤクザや、愉快犯タイプのクレーマーなど、素人ならまずお手上げになるような悪質クレーマーを、筆者が適切に対応・撃退していく。

 

対応・撃退と言っても、うまいこと言って相手を言いくるめるとか、論破して帰ってもらうとかそういう「攻撃的」な対応ではない。こちら側に非がある部分についてはしっかりと誠意をもって謝罪し、一線を超えた要求(金を出せとか、あいつをやめさせろとか)については断固として応じない。そのためには60日間にわたって交渉することもあるし、その過程で社員が軟禁されることもある。まるで冒険ミステリ小説を呼んでいるかのような気持ちで、楽しく読んでしまった。

 

こういう表現は不適切な気もするが、このレベルになるとクレーム対応はもはやエクストリームスポーツに近くなる気がする。素人が適当にやると怪我をする。世の中にはヘンテコで厚かましいクレームをつけてくる人がこんなにもいるという事実には驚くが、それにこうして適切に対処できるプロがいるということにも同時に驚く。百貨店のお客様相談室はすごい。

 

本書を、本当に「交渉術の教科書」として使うのはちょっと難しいかもしれない。3章ではクレーム対応のポイントが一応解説されているが、筆者のレベルに到達するためにはそれ以上に多くの経験を積む必要があるだろう。僕の場合、経験を積んでも自分ができるようになる自信はまったく湧いてこなかった。素質のようなものは必要かもしれない(そもそも、自分は昔からアルバイトであっても接客業ができる気がまったくしなかった)。

 

クレーム対応は、「誠意をもって謝る」部分と「断固として応じない」部分が両方必要で、さらにはそれを迅速かつ正確に判断しなければいけない。交渉の中でもとりわけレベルが高いものだと言える。筆者はこれから苦情社会が到来することを予言しているが(そしてその予言は刊行から約5年経過して実現しそうな兆しを見せている)、仮にそんな苦情社会が到来したとして、このレベルの対応ができる専門家はなかなか育たないだろう。そういう意味で、未来は暗いのかもしれない。

 

ネットの「ゴミ医学情報」をそろそろ何とかすべき

こちらの記事を読んで。

 

【速報】Google「被リンクからオーサーランクに移行する」SEO業者全滅か!? | 面白ニュース!netgeek

 

とっても有名な話だけど、Googleの検索結果はそのページの「被リンク数」に基づいたページランクと呼ばれる仕組みによって順位付けがされている。実際にはそれ以外の情報も考慮しているのだろうけど、根幹にあるのはこれだ。被リンク数が多いということは、それだけみんなに参照されているから有用な情報だろう、という推定がこのアルゴリズムを支えている。上の記事は、そんな検索結果表示のアルゴリズムを被リンク重視のページランクから、著者の信頼度重視のオーサーランクに移行するというもので、サイト運営者にとってはなかなか衝撃的なものだ。

 

Googleの検索結果表示アルゴリズムが変更されるたびに、SEO業者が全滅するとかブログで収入を得る道はやっぱり安定しないとかそういう話が出てくるのだけど、今回はそういう話は横に置いておく。オーサーランクに移行するのであれば、それによる改善を大きく期待したい分野がひとつある。それは「医学系の情報」だ。

 

たとえば、Googleで「アトピー性皮膚炎」の情報を検索したとする。色んなページが出てくるのだけど、その中にはかなりあやしげな情報が混じっている。さんざん従来型の治療を叩いた後に高価な化粧品やクリームを購入するように誘導したり(要はアフィサイト)や、出所不明の情報をひたすらに真実であるかのように綴り続けたブログが普通に上位表示されていたりする。

 

これらの内容を鵜呑みにして、それを自分のブログで書いたり、NAVERまとめでまとめたり、Q&Aサイトで回答として書き込んだりする人がいるので、あやしい情報はますます拡散する。さらには、これらの情報をアフィリエイトの商品を売るために積極的に利用する人もたくさんいるので(これはもはや犯罪に近い悪行だと思う)、ゴミはどんどん広がっていく。今やアトピー性皮膚炎に関しては、ネットは信頼性の著しく低い「ゴミ医学情報」で溢れかえっている。

 

権威のある専門家よりもみんなに支持されるコンテンツを重視しようというGoogleページランクは、「権威に囚われないネットの面白さ」づくりの重要な担い手だったとは思う。今でもこの思想が有効に機能するような分野はあると思うし、そういう意味ではオーサーランクへの全面移行があらゆる意味で望ましいとは言いづらい。ただ、医学情報のような分野では、やはり「素人の多数決」では秩序が保てない。健康に関わる情報で「面白さ」とか「センセーショナルかどうか」が重視されるのはマズい。真剣に人の「生き死に」が関わってくる。部分的にでも、オーサーランク主体の仕組みづくりは必要なのだと思う。

 

最終的にはやはり、ネットの情報を鵜呑みにしないだけのリテラシーを身につけられたら一番いいのだろうとは思う。個人が何の校閲も経ずにコンテンツを公開できるネットの信頼性が、著しく低いことはあたりまえだ。最初からそういうものとしてネットの情報には接する必要がある。ただ、どうもこんなふうにカジュアルにあやしい医学情報が拡散していく様子を見ていると、「ネットの情報を鵜呑みにしないようにしましょう!」とアナウンスするだけでは足りない気がする。どうすればいいんでしょうね。

追記(2014/05/15 10:54頃)

冒頭で挙げた元記事の訳はあまり正しくないとのことです(こちらなど参照)。もっとも、本エントリの趣旨はGoogleの検索アルゴリズムの未来について論じるものではなく、ネットのゴミ医学情報をどうにかしてほしいというものなので、エントリ自体はそのまま残しておきます。

 

疑似科学入門 (岩波新書)

疑似科学入門 (岩波新書)