脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

感情労働がなくなる日

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今日も昨日に続いて、新刊『はい。作り笑顔ですが、これでも精一杯仕事しています。』にページ数の関係で載せることができなかったお蔵入りコラムの内容を掲載します。

 

コラムの内容自体はほぼ独立していますので、本を読んでいただいていない方でも問題なくお読みいただけます。こちらとあわせて、ぜひ書籍の方も手にとっていただければと思います! 

 

   コラム:感情労働がなくなる日

 

 しばらく前から、AI(人工知能)というキーワードを新聞や本などでよく見かけるようになりました。

 AIがブームになるのは、実は今回で3回目だと言われています。

 最初に世界でAIブームが起こったのは1950年代のことでした。そう考えると、AIという概念自体は最近になって急に出てきたものであるというわけではなく、だいぶ昔からあるものだということがわかります。

 ではなぜ今になって、また急にAIが注目され始めたのでしょうか?

 それは長らく学問的に停滞してきたAIの世界で「ディープラーニング」と呼ばれる新しい機械学習手法が発明され、この手法を使って現実社会の問題を解決する例が急激に増えてきているからです。

 ディープマインド社(後にグーグルに買収されました)が開発した囲碁AIの「アルファ碁」が囲碁の世界チャンピオンを下したというニュースや、自動運転技術の急激な発展の背景には、この新しい機械学習技術によるブレイクスルーがあります。

 本書はAIの本ではないので技術の詳細に言及することは避けますが、AI技術の応用範囲は非常に広く、様々な分野で今まで人間がやらなければならないとされてきた仕事を、機械だけで完結できるように置き換えつつあります。

 これは接客業のような、感情労働の代表職種にもそのままあてはまります。

 伝統的に、接客のような対人サービスの仕事は、機械には苦手とされてきた分野でした。自然言語を理解し、相手が欲しているものを提供することができるのは人間だけで、そういう仕事は機械にはできないと考えられてきたからです。

 ところが、最近はそういったことも、AI技術を応用することで可能になってきています。

 たとえば、Google HomeやAlexaといったスマートスピーカーは、かなり正確に発話内容から人間のニーズを理解することができます。回転寿司チェーンのはま寿司では、既に人間ではなくクラウドAI搭載型ロボットのペッパーが受付業務を行っています。

 もちろん、これらの技術は未だ発展段階にあるため、現時点ではまだ「完全に人間の接客をAIに置き換える」レベルには至っていません。スマートスピーカーにせよペッパーにせよ、頓珍漢な受け答えをしたり話が通じなかったりすることはよくあります。

 しかし、そう遠くない未来に、飲食店の注文受付から給仕、会計ぐらいはすべてAI搭載のロボットが完結して行えるようになる可能性は十分にあります。この世界は進化のスピードが非常に早いので、あと10年もしないうちにそういう世界がやってくるかもしれません。

 人間と違って、AIは疲れることを知りませんし、傷つくこともありません。人間のように、ストレスが原因で離職してしまうということもないので、コストとクオリティの問題さえクリアできるなら、経営者はすぐにでも人手をAIに置き換えたいと思っているはずです。

 では、そうやってAIが社会に広く浸透した未来には、もう感情労働の仕事はなくなるということなのでしょうか?

 これは結構、微妙なところだと僕は考えています。

 たしかに、AI技術が本格的に対人サービスの現場に導入されるようになれば、感情労働の総量自体は減っていくだろうと思われます。「普通の客」が店に来て何かを注文して買うぐらいのことであれば、もはや人間の店員が接客をしなくても特に問題は起きないでしょう。

 しかし、いわゆるモンスター消費者や迷惑クレーマーのような「厄介な客」の対応までAIで可能になるのかと言われると、それは疑問です。

 こういう厄介な客の不当な要求に対して、AIが淡々と「それはできかねます」と返し続けるぐらいのことはできるでしょうが、彼らがそれで納得して帰ってくれるとは到底思えません。

 結局は、

「機械では話にならん、人間の店員を出せ!」

 ということになり、人間が出て行って今までどおり過酷な感情労働をしなければならなくなる場面は、未来でも残ってしまうのではないのでしょうか。

 もしそうなってしまうとしたら、感情労働の仕事の過酷さは更に増すことになると言えます。

 善良な客の相手はほとんどAIがすることになるので、人間が相手にするのは基本的にモンスター消費者やクレーマーのような「厄介な客」だけです。今まで、感情労働をする人が励みとしていた「お客様の笑顔」にも「お礼の言葉」にも、もはや接することはできません。

 そうなってしまったら、もはや感情労働の仕事は「やりがい」ではなく「割り切り」の気持ち以外ではこなせない仕事ということになりそうです。

 未来は必ずしも、明るいとは言えません。 

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閉まっている本屋さんが多いですが、電子書籍版もありますので、どうぞよろしくおねがいします。