脱社畜ブログ

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『働かないアリに意義がある』:多様性が社会を存続させる

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「アリとキリギリス」の寓話に見られるように、アリといえば「働き者」というのが一般的なイメージである。しかし、最近の研究では、必ずしもアリは働き者ばかりというわけではなく、ほとんど働くことなく一生を終えるアリもいるということが分かってきたのだそうだ。そんなアリを代表とする真社会生物の生態について書かれている本が、今日取り上げる『働かないアリに意義がある』(長谷川英祐)である。

 

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

 

はじめに断っておくと、本書は純粋に生物学の本であり、労働問題についての本ではない。そういうのを期待するとちょっと外れるので気をつけてほしい。もっとも、本書には生物学の本を超えて、集団と個、そして社会の存続や人類の進化について考えさせるだけの材料があると僕には感じられた。

 

本書では、働かないアリの存在について「反応閾値モデル」という理論によって説明されている。アリには一体一体、仕事に取り掛かるための腰の重さである「反応閾値」というパラメータが存在する。例えば、部屋の掃除という仕事があるとして、どのぐらい部屋が散らかったら片付けようと思うか、というラインが「反応閾値」だ。これが低いと働き者になるし、高いとほとんど働かないようになる。働かないアリは反応閾値がとても高い。そして、アリのコロニーには、反応閾値の低いアリから高いアリまで、様々な反応閾値をもったアリが存在する。

 

ここで疑問に思うのは、「反応閾値」の高いアリに存在意義などあるのか?ということだ。こんなふうに、反応閾値多様性をもたせるよりも、構成員全員の反応閾値を低く揃えて、すぐに全員で仕事に取り掛かったほうが、効率が上がるように思えなくもない。

 

しかし、そのような「全員で頑張って即座に仕事をする」というやり方が、必ずしもコロニーの存続にとって有利とは言いがたいのである。詳細なメカニズムについてはぜひ本書を読んでほしいので割愛するが、結論だけ示すと「反応閾値が揃っている組織」は、短期的には仕事の効率が上昇するものの、そのような効率での仕事は長く続かずにいずれコロニー全体が死滅してしまう。「働き者ばかり」の組織は、短期的にはすごい成果をあげたとしても「持続可能」ではない、というおそるべき事実に気付かされる。

 

これはあくまでアリの話であるから、どこまで人間の組織に適用してよいものかは大いに議論する必要があるものの、アリの世界のように「多様性」が社会をうまく存続させている、というのは何となく分かるのではないだろうか。

 

例えば、人にはそれぞれ得意不得意があり、それゆえこの社会には色んな職業が存在するし、好き嫌いも多様であるがゆえに色んな商品が売れて経済が回る。みんなが同じ価値観をもって、同じ方向に進むだけだったら、こんなに住みやすい社会にはおそらくなっていない。「多様であること」は、社会の緊急事態にも強い。色んな構成員がいれば、何か不測の事態が起こった時にも対処できる人がいる可能性が高くなるので、社会は画一的である場合よりもロバストになる。

 

これを読んで思ったのは、果たして日本の会社組織は多様性をどのぐらい許容しているのだろうか、ということだ。「仕事=人生、毎日でも働きたい」という価値観の人と、「とにかく毎日定時で帰りたい」という価値観の人が、お互いを許容しつつ働くことは、現代の会社だとどうも許されていないように思える。アリが多様性をうまく利用して社会を存続させているのに対して、日本人はこれでもかというほど横並びになろうとする。このやり方で、僕たちはいつまで持つのだろうか?と思わずにはいられない。

 

僕は思わず仕事のことを考えてしまったが、本書は別にそういうのを抜きにして、大いに知的好奇心を刺激する生物の本である。上に書いた反応閾値以外にも、本書では真社会生物の驚くべき生態について色々と書かれている。アリの社会に興味を持った方は、ぜひとも読んでみて欲しいと思う。