脱社畜ブログ

仕事観・就職活動・起業についての内容を中心に、他にも色々と日々考えていることを書き連ねていきます。

『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』:大企業でもスタートアップでもない、第三の道

 

NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方

NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方

 

 『小さなチーム、大きな仕事』や『強いチームはオフィスを捨てる』に続く、Basecamp社(旧37signals)の新刊『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』を読んだ。

 

個人的な話になるが、僕は就職活動の時に、とにかく毎日残業がなくて、ストレスなく働けて、給料がしっかりもらえる会社で働きたいと思っていた。ところが、実際にいくつか会社を調べてみると、そんな都合のいい働き方ができる会社はほぼ存在しないという絶望的な事実を知った。

 

いわゆる大企業は雇用こそ安定しているが、仕事自体は非効率の極みでありストレスなく働ける気がまったくしなかった。このブログでたびたび批判しているような意味不明な慣習が幅を利かせている会社も少なくない。何より、毎日スーツを着て満員電車に揺られて会社に行っている自分のイメージが沸かなかった。

 

では少人数のスタートアップならどうだろうか。たしかにスタートアップなら先進的な働き方を取り入れている会社も多いので、歴史ある大企業に比べればワークスタイルの点でストレスを感じることは少なそうだ。社員数も少ないので、大企業のように決裁をあおいでスタンプラリーをするとか、会議地獄で自分の仕事がまったくできないということもない。職種によるが、服装も自由なところが多い。

 

ところが、スタートアップには忘れてはいけない一面がある。スタートアップは基本的に、上場などのイグジットに向けて爆発的な成長を志向する。その結果、ほとんど絶対と言っていいほどハードワークになる。平日の夜はもちろん、土日が潰れることも少なくない。僕も大学院生の時に、そういう小さな会社を友人数名でやっていて、たしかにあの時は楽しくもあったけれど、かなり疲弊もしたので当面は御免こうむりたいという気持ちが強かった(このあたりの話は『脱社畜の働き方』という本に昔書いたので、もし興味があったらそちらを参照してみてほしい)。

 

結局僕は、その中間を狙って、いわゆるメガベンチャーを中心に就活をしてあるウェブ系の会社に就職することになった。その会社にはスタートアップ並のハードワークと大企業並の理不尽な慣習が同居していて、「とにかく毎日残業がなくて、ストレスなく働けて、給料がしっかりもらえる会社で働きたい」という僕の願いはやはり叶わなかった。

 

前置きが長くなったが、本書はそんな「とにかく毎日残業がなくて、ストレスなく働けて、給料がしっかりもらえる会社で働きたい」という願望を叶えたい人向けの本であると言ってよいだろう。本書を読む限り、Basecamp社はまさにそういう会社で、しかもそれを志向して会社のカルチャーやワークスタイルを決めているように思える。

 

ネット上では、大企業と比較してスタートアップが礼賛される傾向が強いが、大企業で働きたくない人にとってスタートアップが天国かというと、必ずしもそういうことはない。前述のように、僕はスタートアップのハードワーク体質がどうしても馴染めなかった。服装などの形式には縛られず、ビジネスの本質的な価値を生み出すこと自体に集中できるという点ではすごく魅力的に感じるのだが、プライベートが存在せずすべてを仕事に注ぎ込む生活は自分には無理だった。

 

本書は、そういった「古いワークスタイルは嫌だが、ハードワークも嫌」という人に対して第三の道を提示する本であるとも言える。本書で紹介される働き方は、古いワークスタイルが持っていた理不尽さとは無縁だ。それと同時に、スタートアップ的な圧倒的成長も目指さない。賢い人がその自分の賢さを、会社の成長ではなく自分たちが楽をするためにだけ使う方法を紹介しているとでも言えばいいだろうか。

 

いくつか例を挙げると、本書では成長のための目標を立てることや、人材獲得競争をすることのような、従来のスタートアップでは当然のようにやっていることを否定する。そのうえで、会議の時間や集中して仕事をしている時のインタラプトをなくし、仕事の効率を最大限に高めることの重要性が説かれる。一項目一項目は短いのでサクサク読めるが、ところどころにハッとさせられる文章が混じっており、そういう意味ではこの本自体もだいぶ効率がいい。

 

個人的には、こういう会社がもっと増えて欲しいと思う。もしかしたら、それは資本主義の要請とは微妙にズレたところにあるのかもしれない。だからこそ、本当の幸せはその微妙にズレたところにあるような気もするのだ。

 

小さなチーム、大きな仕事 働き方の新しいスタンダード (ハヤカワ文庫NF)

小さなチーム、大きな仕事 働き方の新しいスタンダード (ハヤカワ文庫NF)

 

 

強いチームはオフィスを捨てる

強いチームはオフィスを捨てる

 

 

晩婚化・非婚化と少子化について:『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』

こちらのニュースを見て、そういえば少し前に、少子化について下記の本を読んだことを思い出した。 

少子化について書かれた本は少なくないが、その中でも本書はファクトベース、統計に基づいた議論をすることに終始しており、そういう点で少子化について考える上で基本書にしてよい本である。

 

少子化の原因について、よく言われるのが「女性の社会進出とそれに伴う仕事と子育ての両立困難」というもので、これはたしかにひとつのファクターとして考えられるのだが、もちろん考えられる原因はそれだけではない。本書では、ざっと10個ほど考えられる原因を上げた後に、では実際にどのファクターがどれだけ影響を与えている可能性がるのかを統計情報などに基づいて考察し、その上で我が国の取っている少子化対策についてそれが適切であるかの考察を加える。

 

「保育園落ちた日本死ね」の記事に象徴されるように、ネット上には「子育てと仕事の両立困難」に対する意見や情報が多い。これは別に悪いことではないし、実際に困難なのは事実であって改善の取り組みは続けていかなければならないが、本書が少子化の大きなファクターとして指摘するのはその前の段階、すなわち非婚化・晩婚化である。この話は人口学の世界では常識らしいのだが、不勉強な僕は恥ずかしながらあまりそういう認識をしたことはなかった。

 

いい加減な要約をすると本書の価値を減じてしまうのでぜひ本自体を呼んでほしいと思うのだが、本書の指摘はある意味ではシンプルであり、要は非正規雇用などの低収入で働く若年層が増加することで、若者が結婚願望自体を抱かなくなっているということである。怒られるのを承知で単純化してしまえば

 

正社員になれない→金がない/将来不安→結婚は無理(したいとも思わない)→子供が減る

 

という話である。つまり、(やはりこれも単純化しすぎているが)若者に将来の不安がない程度に金がまわるようになれば少子化問題はある程度、好転するということが言える。行き過ぎた近代化であるとか、価値観の変遷であるとか(価値観で言えば、本書ではトラディッショナルな結婚感が未だに人工構成の多数を占めていることが示される)、よくネット上でされる論考は間違っているとは言わないまでも、量的には実はそんなに影響が大きいものではない。

 

一点、注意が必要なことがあるとすれば、本書が書かれたのは2013年でありちょっとだけ古いという話である。ゆえに、本書に載っている統計は最新データではないのだが、本書で使用されている統計の多くはネットで探せば最新のデータが入手できる。僕も本書を読みながらいくつか見てみたが、著者の主張を大きく覆すような劇的なデータの改善が行われた例は特にないように見られたので、著者の主張は今でも妥当であると考えてよいだろう。

 

本書刊行時点(2013年)と現時点での大きな違いを挙げるなら、本書刊行時点ではまだアベノミクスが本格化していなかったという点が挙げられる。少なくとも株価はだいぶ持ち直したし、「人手不足」が叫ばれるようになり、有効求人倍率も大きく回復した。では、これで少子化問題は好転していくのかというと、基本的にそういうわけではないように僕には思える。

 

数字上は一見、回復したかに見える若者の就業率の実態は非正規雇用が未だ中心であり、彼らの将来不安は未だ払拭されない。大規模な金融緩和をしてみたものの、未だに目標としていた物価上昇率は達成できず、取りうる選択肢は確実になくなりつつある。米中の貿易戦争の火種も消えず、世界経済の先行きは不透明だ。アベノミクスが頓挫すれば、少子化はいよいよ取り返しがつかない段階まで進むだろう(取り返しがつかない段階はとっくに過ぎているという指摘もあるが)。

 

この記事では主に非婚化・晩婚化を中心に内容を紹介したが、本書のカバーする範囲はそれにとどまらず、いわゆる従来的な子育てと仕事の両立支援などについても扱っている。少子化問題について考えるなら、ぜひ最初の一冊として手にとってみることをおすすめしたい。