これは僕の知人が新卒で入社した会社の話なのだが、彼は入社してすぐの新人研修で、先輩社員から「お前ら新卒はコストだ」と言い放たれたそうである。叱咤激励の類と捉えられないこともないが、それからも事あるごとに「コストだ、コストだ」と言われ続け、「一刻も早く利益を生み出せるようになれ」と何度もプレッシャーをかけられたという。
この手の話は決して珍しい話ではないようで、『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(今野晴貴)にも同じような話が出てくる(pp.28 - 31)。「新卒=コスト」だと言って新卒を罵るという手法は、新人にプレッシャーをかける方法の定番であるようだ。
純粋に経営という観点のみから考えると、新卒社員が入社してしばらくは利益をもたらさない存在であることは紛れも無い事実である。もっとも、そんなことは雇う前から分かっていたはずである。だからこそ、新卒社員に対しては研修を行うわけであり、長期的に見て十分ペイすると考えているから、新卒採用を行なっているはずだ。そんなに短期的に利益を生み出さないのがイヤだったら、最初から新卒なんて雇わなければいいのである。雇っておいて「コストだ、コストだ」と罵るのは、矛盾しているとすら思える。
そもそも、コストについて考えるのは経営者の仕事である。一介の雇われに過ぎないはずの社員が、経営者目線に立って、自分の給料を純粋にコストとして把握しなければならないというのは、なんとも変な感じがする。こういう考え方が行き過ぎると、例えば「残業はコストだから、残業代の請求はしない」といったサービス残業を肯定するような考え方にすら繋がるおそれがある。会社が得をしているということは、基本的にはあなたが損をしているということであり、そこまで会社に尽くしてやる理由は本当にあるんだろうか。
不思議なのは、先輩社員にコストだと理不尽に罵られたのにもかかわらず、「早くコストから脱却できるように頑張ります!」と答えてしまったりする人間がいることだ。こういった人たちの社畜適性は高いと思うが、もしや新卒社員をコストと罵るのは、こういった社畜適性のある人間だけを会社に残して、残りの社畜適性がない人間を辞めさせようという魂胆があるのではないか、と邪推してしまう。
基本的に、新卒社員をコストと罵るような会社はろくな会社ではないと思ってよい。こういった会社で、会社のために一生懸命に働いても、働きに合った見返りは得られない。こういった会社に勤めている人は、コスト脱却を目指すのではなく、転職先を探すなり独立するなり、そういう方向にエネルギーを使ったほうがよいだろう、と個人的には思う。
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